インタビュー
わが社の知財戦略―キーパーソンに聞く〜株式会社ジェイテクト 知的財産部長 竹中 弘 氏〜
2009年11月20日掲載 (I.P.R.)
豊田工機と光洋精工の合併から3年が経ち、ジェイテクトは、社名のブランド構築を 含め新しい知財管理を模索している。自動車部品業界は従来から同業他社との厳しい 競争を繰り広げてきた。基本的に今もその構造は変わっていない。転換期にある自動 車市場にあって、今後どのような知財戦略をとるのか、竹中知財部長に聞いた。(聞 き手:藤野仁三・東京理科大学専門職大学院教授)
わが社の知財活動
Q1.まずジェイテクトの概要を簡単にご紹介ください。
ジェイテクトは光洋精工と豊田工機との合併により、2006年に誕生しました。電動パワーステアリングシステムからドライブラインを統合したシステムまで、あらゆる方式にわたるステアリングシステムを供給できるシステムサプライヤーです。
母体となった光洋精工と豊田工機を簡単に説明します。光洋精工は1935年に設立されたべアリングやパワーステアリングの開発製造を専門とする会社、豊田工機は1941年設立のパワーステアリングや工作機械のメーカーでした。両社は2000年から電動パワーステアリングの共同開発に着手し、その後2002年に開発・販売会社を設立し、2005年に合併のための契約を締結しました。
両社の合併により、ジェイテクトは電動パワーステアリングの世界トップランナーになりました。電動パワーステアリングは、エンジンのパワーをロスせずに大幅な省エネルギーを可能にする新しい技術です。
また、ジェイテクトは車両のエンジン、駆動、ブレーキなどとの統合制御が容易になる電子制御技術でもトップランナーです。具体的に、ステアリング・ベアリング・駆動部品・工作機械の4つの商品群を柱として企業活動を行っており、売り上げは1兆円(2009年3月連結)を超えています。また、現在、電子制御式ギア比可変機構と世界トップクラスの高出力化を実現するラック同軸電動パワーステアリングをシステム化し、自動車の燃費向上と予防安全に貢献しています。

Q2.ジェイテクトの企業ビジョンを教えてください。
私どもでは“Creation & Innovation”を基本精神にして、これまで培ってきたモノづくりの基盤技術をベースに、ステアリング・駆動部品などの機能部品メーカーとして、質の高い製品づくりを目指しています。
私どもは、企業ビジョンを通じて、「会社の夢の実現」と「社員の自己実現」を実現していきます。企業ビジョンは具体的には、以下の4つの姿「目指す企業像」を描き、その実現を目指すことです。
1) 地球環境にやさしいモノづくり企業(具体的にはエコファクトリーの実現、省エネ、省資源、リサイクル商品の提供など)
2) 安全、安心、快適を提供する「生活・労働環境」改善推進企業(具体的には、事故が発生しない予防安全商品の提供、ITS社会に対応した商品の提供、誰にでも使いやすい設備・商品の開発と提供など)
3) 市場の変化をビジネスチャンスと捉え、世界で成長し続ける企業(具体的には、世界トップレベルの品質により、グループのプレゼンスを高める、グループ力を結集した新たな商品・サービスの創出・新規事業化など)
4) 世界各地域の社会・文化を理解し、共存するグローバル企業(具体的には、企業倫理を含めたコンプライアンス経営、働きがいを実感できる職場づくり、ジェイテクトWAYを基盤とした経営の現地化など)。
Q3.そのような企業ビジョンに対応するために、知財活動・知財戦略はどのように展開されていますか。
合併してから今年で4年目になり、社内に一体感が生まれてきました。特に電動パワーステアリングについては、研究開発のリソースが奈良県橿原市の「研究開発センター」に集約され、合併のシナジー効果が出てきました。そのような社内状況を踏まえて、私どもでは資産活用のための行動計画「JIPANG Project」(JTEKT Intellectual Property Account Newly Gain Project)を立ち上げました。これは、特許権の取得から特許権の活用への移行を推進するプログラムで、いわば「黄金を求めて」というイメージです。
知財活動の内容としては、
(1)権利活用の仕組みを構築して「侵害発見⇒判定⇒権利行使」の流れを常態化させる
(2)事業戦略に応じた活用特許の選定を行う
(3)将来事業の盾となる知財権を獲得する―のが当面の目標です。
たとえば、(1)の「権利活用の仕組みの構築」についてですが、具体的にはこれは知的財産部だけで実現できるものではありません。事業部や各技術部との連携が必要となります。その連携を成功に導くには、知財部がしかるべく情報発信を行い、技術・営業など担当部門の技術者の気づきを促す必要があります。つまり現場の意識改革を起こさなければなりません。
また、特許のポートフォリオに関しても、選択と集中を行っています。重点テーマを厳選して、リソースを集中し、特許網を充実させています。これを実現するためには、特許網の考え方を明確にする必要があります。たとえば、自社が強みをもつ技術分野での特許網の構築とキャッチアップ分野での特許網構築では当然戦略が異なります。
戦略的に重要なのは前者です。自社が先行する技術分野では、自社実施、他社参入の阻止を目指すことが究極の目的となりますから、出願は、技術の幹は当然として、主要な枝・葉の部分も保護することが必要となります。そのためには、基幹技術であるステアリング分野の場合、実施可能性が高く、技術的広がりをもった発明が重要となり、それを然るべく権利化することが重要です。
重要性判断の指標は、自社&他社実施可能性の大小、基本技術か周辺技術か、特許性の有無となります。

個別テーマ
Q4.JIPANG Projectについてもう少し具体的にご説明いただけますか。
先ほど述べましたように、これは知的財産権による一種の新規利益獲得計画です。他社による侵害発見を促進し、所有特許を活用することで、知的資産の最大活用をねらいとするものです。基本原理はシンプルです。知財による利益を最大化しようという発想です。効果的な特許網を構築して、それによるライセンス収入を期待しようというものです。
Q5.特許事務所との関係見直しもコスト削減の一環ですか。
私どもでは特許事務所との関係は「パートナーとの連携」と位置付けており、必ずしもそれはコストで割り切れる関係とは考えていません。確かにコストの問題は重要ですが、それよりも提供してもらう専門的なサービスの質をいかに維持し、私どもの意向に沿うサービスを提供してもらうかが重要です。
私どもは2006年に合併しましたが、当然合併前には母体となった光洋精工、豊田工機の両社はそれぞれ独自の取引関係を持っていました。合併後、取引関係のあった事務所との業務は、ジェイテクトに引き継がれました。特許出願という専門的かつ継続性のある業務ですので、これはやむを得ない部分もあります。その結果、2007年度は1093件の出願案件を18事務所に分散して依頼しました。その際、取引の継続性を優先するあまり、必ずしも事務所の専門性やサービスの質をあまり考慮しなかったのも事実です。また、ジェイテクトと特許事務所との役割を明確に整理できていませんでした。
このような背景と反省点から、事務所のサービスの質を評価して、事務所の選択と集中を行うことにしたのです。これによって、依頼する事務所への出願案件が増え、事務所の専任者が確保されるため、私どもに対するサービスの質が向上しています。その際の評価項目は、発明・技術の理解力、クレーム作成能力、納期、付加価値などを総合的に考慮して決定しました。
以上のことからもお分かりいただけると思いますが、「関係見直し」と言っても、基本的には合併に伴う取引先の増加という状況を一旦整理して、よりサービスの質が高くなるような連携を模索したというのが適切だと考えています。
Q6.P&Aゲート活動とはどのようなものでしょうか。
P&A活動とは商品開発のステップに合わせて特許と契約を有機的に連動させる活動で、Patent & Agreementの頭文字をとってネーミングしました。具体的には企画構想の段階から量産販売の段階までの工程の間に10のゲートを設け、各ゲート毎に特定のチェック項目の要否を確認するというものです。研究・量産開発における各ステップに知財の視点でのチェック機能を設けて、各ステップで知的財産活動を漏れなく確実に実施することをねらいとするものです。
このチェック項目は各ゲートに共通するもので、
a)契約の締結・遵守
b)開発の方向決め(ベンチマーク)
c)他社特許の侵害防止(特許保証)
d)開発技術の保護(特許網構築)
e)開発商品のネーミング(商標出願)
の5項目です。
Q7.最後に、業界の特許保証の問題はどのような状況にあるのでしょうか。
自動車部品業界は、納入先であるアッセンブリーメーカーから特許保証を求められます。これが部品メーカーにとって大きな負担となっているのは事実です。例えば、国内のベアリングやステアリング業界の場合、大手三社がシェアを競っており、三社間の特許攻勢も激しい状況が続いています。これにより必要以上に競合他社との特許関係のクリアランスが厳しいものとなって、それが特許保証の負担をより増加させているというのが現状です。
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