インタビュー
デフレを放置し続ける日本銀行は、もういらない
2009年11月5日掲載 (月刊BOSS)
学習院大学・岩田規久男教授は、先日出版した『日本銀行は信用できるか』の中で、日本経済最悪のシナリオであるデフレが進行していると指摘する。政権交代が現実となった現在でも、政府はデフレ対策に本腰を上げない。より効果的な金融政策が必要とされるなか、日本銀行はあまりにも無策だ。(月刊BOSS 2009年11月号掲載)
バラマキはいずれ行き詰まる
―― 7月の消費者物価は前年比マイナス2.2%と、過去最大の落ち込みを記録しています。これで物価下落は5ヵ月連続となり、ものすごいデフレが起こっています。岩田先生は先日出版した『日本銀行は信用できるか』の中で、日本経済最悪のシナリオであるデフレが進行していると指摘しています。にもかかわらず、先の総選挙の時も景気対策とは言いながら、デフレ対策はまるで論点に上がってきていません。
―― 昨年9月のリーマン・ショック後の不況の中、政府は積極的な財政出動を行ってきました。また選挙に勝った民主党も、バラマキ的な政策を打ち出しています。しかし財政政策はカンフル剤としての効果はあるでしょうが、いつまでも続けられるものではありません。
月2万6000円というのは、高福祉国家として知られるスウェーデンの2倍の子供手当てです。そのスウェーデンの人たちは所得税と付加価値税を合わせると税率は75%にもなる。それだけの税金を支払って高福祉を支えているわけです。ところが低負担か中負担でスウェーデンのやっていることのつまみ食いをしようというのが民主党の政策なんですね。1年ぐらいはしのげるけれど、いずれ行き詰まってしまいます。
―― そのためには日本銀行による効果的な金融政策が必要というのが、岩田先生の主張ですね。
ところが日銀は金融緩和に消極的です。リーマン・ショック後、流動性が不足したため、一時、CPなどの買い入れを進めましたが、その後すぐに減らしています。年末、年度末にはまた増やしても、それが終わるとまた元に戻す。結局これは信用対策であって景気対策にはなっていません。貨幣供給量の増加につながる中央銀行の資産量をみればそれは明らかです。たとえば米国のFRBは、今年5月段階で、リーマン・ショック前より2.4倍資産を増やしていますし、イングランド銀行は1.9倍です。ところが日銀の資産はわずか2%しか増えていません。その結果として日本ではデフレが進むことになったのです。
この政策を転換して、日銀が国債(とくに長期国債)や社債、CPを買い入れ、貨幣の供給量をどんどん増やしていく必要があります。こう言うと、日銀の信用がなくなるというようなことを言いますが、アメリカは金融緩和を進めていても、FRBの信用は全然なくなっていません。経済がよくなれば当然、日銀の信用は増すということです。もっとひどいのは日銀券の信用がなくなると言う人もいる。国債を引き受けると日銀の資産が毀損されると言いますが、日銀の資産の既存度合いを考えて日銀券を使う人がどこにいますか。まったく意味のない議論です。
岩田
確かにそのとおりですね。マスメディアも含めてですが、最近、デフレをそれほど深刻に捉えなくなってきています。小泉政権の初期にも日本はデフレだったのですが、その時は、世界的な大好況となり、2002年ぐらいから日本は輸出が伸びて景気が回復していきました。実際にはデフレは脱却していなかったにもかかわらず経済成長を果たしたために、それ以来、あまりデフレを気にしなくなったようですね。ある意味、デフレに慣れてしまった。―― 昨年9月のリーマン・ショック後の不況の中、政府は積極的な財政出動を行ってきました。また選挙に勝った民主党も、バラマキ的な政策を打ち出しています。しかし財政政策はカンフル剤としての効果はあるでしょうが、いつまでも続けられるものではありません。
岩田
民主党政権は、自民党以上に一生懸命ばらまくことで経済を支えようとしています。子供手当ては月に2万6000円。子供が3人でいれば年間100万円のボーナスが手に入る。対象になる子供を持つ人たちはみんなこの誘惑に勝てなくて民主党に入れたでしょうね。しかし、そんなに長く続くわけがありません。月2万6000円というのは、高福祉国家として知られるスウェーデンの2倍の子供手当てです。そのスウェーデンの人たちは所得税と付加価値税を合わせると税率は75%にもなる。それだけの税金を支払って高福祉を支えているわけです。ところが低負担か中負担でスウェーデンのやっていることのつまみ食いをしようというのが民主党の政策なんですね。1年ぐらいはしのげるけれど、いずれ行き詰まってしまいます。
―― そのためには日本銀行による効果的な金融政策が必要というのが、岩田先生の主張ですね。
岩田
大不況における経済対策というのは、財政政策と金融政策が一緒になって初めて効果が出るんです。即効性があるのは財政政策ですが、それを持続させるのは金融政策があって初めて可能です。これは1929年の世界恐慌から学んだことです。ですからリーマン・ショック後、世界各国の中央銀行は貨幣の大量供給に踏み切り、具体的には長期国債やCPの買い入れを行っています。ところが日銀は金融緩和に消極的です。リーマン・ショック後、流動性が不足したため、一時、CPなどの買い入れを進めましたが、その後すぐに減らしています。年末、年度末にはまた増やしても、それが終わるとまた元に戻す。結局これは信用対策であって景気対策にはなっていません。貨幣供給量の増加につながる中央銀行の資産量をみればそれは明らかです。たとえば米国のFRBは、今年5月段階で、リーマン・ショック前より2.4倍資産を増やしていますし、イングランド銀行は1.9倍です。ところが日銀の資産はわずか2%しか増えていません。その結果として日本ではデフレが進むことになったのです。
この政策を転換して、日銀が国債(とくに長期国債)や社債、CPを買い入れ、貨幣の供給量をどんどん増やしていく必要があります。こう言うと、日銀の信用がなくなるというようなことを言いますが、アメリカは金融緩和を進めていても、FRBの信用は全然なくなっていません。経済がよくなれば当然、日銀の信用は増すということです。もっとひどいのは日銀券の信用がなくなると言う人もいる。国債を引き受けると日銀の資産が毀損されると言いますが、日銀の資産の既存度合いを考えて日銀券を使う人がどこにいますか。まったく意味のない議論です。

「民主党政権の政策はやがて行き詰まる」
日銀流理論のウソ
―― なぜ日銀はデフレを放置しているのでしょう。
しかしデフレを放置していては経済成長は望めません。物価が下がれば買い物はしやすくなるかもしれませんが、消費者は同時に労働者すなわち供給者ですから、物価が下がれば企業の売上げが減り、ひいては賃金も下がります。また企業にしてみても設備投資ができなくなりますし、借金のある会社はそれが返せず倒産に追い込まれるかもしれない。そうなると失業率が高くなるため、経済成長はますますむずかしくなる。
もう一つ、デフレは円高要因になる。過度の円高になると輸出は伸びないし、空洞化が進む。とくに地方経済は製造業に支えられているところが多いため打撃が大きい。さらに観光に頼っている地方も、円高になれば海外に旅行客が奪われてしまう。これも停滞要因です。これでは内需主導になりません。
このように経済が安定的に発展していくためにはデフレは絶対に阻止しなければなりません。日銀はそうならないような金融政策を取っていない。そこが問題なんです。
―― デフレの進行に手を打たない白川総裁の責任は大きいですね。トップが代われば、金融政策も変わるかもしれません。
―― デフレを放置する日銀の考え方というのはどういうものですか。
日銀流理論とは「日銀当座預金や日銀券の増減は民間の貸し出しの増減によって起きるものであって、日銀が直接統制に訴えることなしには日銀当座預金と日銀券の残高を金融政策によって操作することはできない」というものです。
つまり貨幣の流通量というのは民間の需要に基づくもので、中央銀行がコントロールすることはできないというのです。金融政策によってデフレを脱却することはできないと言っているに等しい。しかし民間の需要に合わせて貨幣の流通が決まるというのであれば、金融政策になりません。金融政策ができないのであれば、日銀なんていらないことになります。資金需要がありすぎるときはインフレにならないように抑制し、需要がないときには喚起するような政策を行うのがもともとの日銀の仕事です。ところが日銀流理論は自らの仕事を否定するものです。だとしたら日銀はなんのためにあるのか。
岩田
日銀はインフレに対しては非常に敏感ですが、デフレに対しては冷淡です。ある程度のデフレに対しては物価安定の範囲内だと容認してきました。しかしデフレを放置していては経済成長は望めません。物価が下がれば買い物はしやすくなるかもしれませんが、消費者は同時に労働者すなわち供給者ですから、物価が下がれば企業の売上げが減り、ひいては賃金も下がります。また企業にしてみても設備投資ができなくなりますし、借金のある会社はそれが返せず倒産に追い込まれるかもしれない。そうなると失業率が高くなるため、経済成長はますますむずかしくなる。
もう一つ、デフレは円高要因になる。過度の円高になると輸出は伸びないし、空洞化が進む。とくに地方経済は製造業に支えられているところが多いため打撃が大きい。さらに観光に頼っている地方も、円高になれば海外に旅行客が奪われてしまう。これも停滞要因です。これでは内需主導になりません。
このように経済が安定的に発展していくためにはデフレは絶対に阻止しなければなりません。日銀はそうならないような金融政策を取っていない。そこが問題なんです。
―― デフレの進行に手を打たない白川総裁の責任は大きいですね。トップが代われば、金融政策も変わるかもしれません。
岩田
白川総裁が辞めても、同じ考え方の人が総裁になるシステムが温存されていますから何も変わりません。もし違う考え方の人が総裁になろうしたら、日銀は全力で阻止しようとするでしょうね。―― デフレを放置する日銀の考え方というのはどういうものですか。
岩田
それが日銀流理論です。日銀流理論とは「日銀当座預金や日銀券の増減は民間の貸し出しの増減によって起きるものであって、日銀が直接統制に訴えることなしには日銀当座預金と日銀券の残高を金融政策によって操作することはできない」というものです。
つまり貨幣の流通量というのは民間の需要に基づくもので、中央銀行がコントロールすることはできないというのです。金融政策によってデフレを脱却することはできないと言っているに等しい。しかし民間の需要に合わせて貨幣の流通が決まるというのであれば、金融政策になりません。金融政策ができないのであれば、日銀なんていらないことになります。資金需要がありすぎるときはインフレにならないように抑制し、需要がないときには喚起するような政策を行うのがもともとの日銀の仕事です。ところが日銀流理論は自らの仕事を否定するものです。だとしたら日銀はなんのためにあるのか。

「日銀はインフレに対しては敏感だが、デフレに対しては冷淡」
批判できない日本銀行
―― 『日本銀行は信用できるか』を読むと、その原因の一つに、歴代日銀は、経済政策には明るくない東大法学部が牛耳っているからだと指摘しています。しかし今は白川方明総裁をはじめ、金融政策を決める政策委員会審議委員の多くが経済学部出身です。
なぜなら、日銀流理論に反対する人は組織の中ではじかれてしまうからです。その力はものすごく強い。
しかも組織内部だけでなく外に対しても非常に強い。その一例がマスコミ対策で、なかなか日銀批判はできません。一つには記者クラブ制度があるために、日銀から情報を得ようとしたら、日銀の批判ができない仕組みになっています。以前、マスコミの人間を副総裁に起用したことがありました。これなどは完全なマスコミ対策です。その副総裁は新聞記者でしたが、金融政策に通じている人ではなかった。こんな人事は、世界中どこの中央銀行でもありえません。こういう人事をやるとどうなるか。次は自分が副総裁や審議委員になれるかもしれないと考えるマスコミ関係者が出てくるわけです。何しろ副総裁や審議委員になれば多額の報酬がもらえますし退職金も優遇されています。その後もいろんなポストからお呼びがかかる。こうしてマスコミも日銀に取り込まれてしまうのです。これは学界でも同じです。
実は私もかつて、日銀のエリートたちを対象とした理論経済研修の講師を務めていました。ところが1993年に私は、日銀はマネーサプライをコントロールできるという立場から論争を挑んだのですが、以来、講師に呼ばれることはなくなりました。日銀というのは、あらゆるところで、反日銀流理論を排除するようにできている。組織を守るためにあらゆる手段を講じています。
―― この本の中で岩田先生は、日銀はインフレターゲットを導入すべきと強く主張しています。これは年間のインフレ目標を2%程度に設定し、それより高くなりそうなら金融引き締めを行い、それより下に、つまりデフレになりそうな時には量的緩和などでインフレ誘導しようというものです。しかし日銀流理論に立てば、そんなことができるはずがないということになります。
―― 1998年に日銀法が改正され、日銀は独立性を保証されました。これにより、金融政策は日銀の専管事項となり、政府が口出すことが事実上、不可能になってしまっています。
―― 日銀の独立性は、日銀が長い時間をかけてやっとの思いで手に入れたものです。そう簡単に手離すとは思えません。
岩田
確かに白川総裁は東大経済学部出身ですが、総裁が経済学部出身というのはとても珍しいですね。現在は審議委員も経済学部出身者が多い。しかし重要なのは、本当に金融政策の専門家を選んでいるかどうかです。実際には女性代表だったり、金融業界・学界代表だったりと、専門家とはいえない人が選ばれているということです。その結果、企画局が立案する金融政策に反論できない人ばかりになってしまい、たいした論議もなく、企画局の政策が通ってしまう。そしてこの企画局の主要なメンバーがみな東大法学部出身者です。彼らは前例踏襲主義で、従来の日銀流理論の信奉者です。あるいは経済学部出身者でも、日銀に勤めているうちに、日銀流理論に染まってしまうのです。なぜなら、日銀流理論に反対する人は組織の中ではじかれてしまうからです。その力はものすごく強い。
しかも組織内部だけでなく外に対しても非常に強い。その一例がマスコミ対策で、なかなか日銀批判はできません。一つには記者クラブ制度があるために、日銀から情報を得ようとしたら、日銀の批判ができない仕組みになっています。以前、マスコミの人間を副総裁に起用したことがありました。これなどは完全なマスコミ対策です。その副総裁は新聞記者でしたが、金融政策に通じている人ではなかった。こんな人事は、世界中どこの中央銀行でもありえません。こういう人事をやるとどうなるか。次は自分が副総裁や審議委員になれるかもしれないと考えるマスコミ関係者が出てくるわけです。何しろ副総裁や審議委員になれば多額の報酬がもらえますし退職金も優遇されています。その後もいろんなポストからお呼びがかかる。こうしてマスコミも日銀に取り込まれてしまうのです。これは学界でも同じです。
実は私もかつて、日銀のエリートたちを対象とした理論経済研修の講師を務めていました。ところが1993年に私は、日銀はマネーサプライをコントロールできるという立場から論争を挑んだのですが、以来、講師に呼ばれることはなくなりました。日銀というのは、あらゆるところで、反日銀流理論を排除するようにできている。組織を守るためにあらゆる手段を講じています。
―― この本の中で岩田先生は、日銀はインフレターゲットを導入すべきと強く主張しています。これは年間のインフレ目標を2%程度に設定し、それより高くなりそうなら金融引き締めを行い、それより下に、つまりデフレになりそうな時には量的緩和などでインフレ誘導しようというものです。しかし日銀流理論に立てば、そんなことができるはずがないということになります。
岩田
日銀がインフレターゲットを導入しないのは、日銀流理論がベースにありますが、それは建前です。本音は、日銀ははっきりとした数値目標を出したくないんです。数値目標を出せばそれに対する責任が生じ、達成できなければ責任を取らなければいけません。それがいやなわけです。これが日銀の本音です。―― 1998年に日銀法が改正され、日銀は独立性を保証されました。これにより、金融政策は日銀の専管事項となり、政府が口出すことが事実上、不可能になってしまっています。
岩田
中央銀行の独立性には2種類あります。一つは目標設定の独立性。もう一つが手段の独立性です。このうち、手段の独立性は認めるべきだと思います。しかし目標については政府が決める。もちろんその過程においては政府と中央銀行が相談するのは当然ですが、最終的には政府が目標設定を行う。中央銀行はそれに基づいて、自分たちの決めたやり方で目標を達成する。もし達成できない時は説明責任が生じますし、さらには進退を問われることになる。ところが現在は、目標設定、手段ともに日銀に独立性を与えてしまった。これは間違いでした。―― 日銀の独立性は、日銀が長い時間をかけてやっとの思いで手に入れたものです。そう簡単に手離すとは思えません。
岩田
しかし政府が動けば可能です。日銀法を改正すればいいだけですから。そのためにも、デフレがすべての元凶であることに気づいてもらわなければなりません。
「デフレがすべての元凶であることに気づかなければいけない」
インフレ目標を導入せよ
―― 海外にはすでにインフレターゲットを導入しているところもあるようですね。
―― 10年前にもインフレターゲット論がさかんに言われていましたが、反対派の人たちは、“インフレターゲットはもともと高インフレの国がインフレを抑えるためにターゲットを設定した。デフレの国がインフレターゲットを設定してうまくいった例はない”と言っていました。
アメリカではインフレターゲットは導入していませんが、それでもデフレになりそうな時に強力な金融政策を行っています。アメリカのインフレ率は現在1.8%ですが、それでも長期的に考えると、さらに低下する可能性が大きいということで金融緩和している。これが世界の常識です。しかし日本では学界でさえも標準的理解になっていない。
世界を見渡せば、インフレターゲットを導入した国は、いずれも実績を残している。そうした前例がいくらでもあるんだから、一度やってみればいいんです。日本が失われた10年を繰り返さないために、それが絶対必要なんです。
(聞き手=月刊BOSS編集長・関慎夫)
プロフィール
いわた・きくお 1942年大阪府生まれ。66年東京大学経済学部を卒業し、73年同大学大学院博士課程修了。上智大学経済学部講師、助教授を経て83年教授、88年から現職。この間カリフォルニア大学バークレー校客員研究員を務める。専門は金融・経済政策。主な著書に『インフレとデフレ』(講談社現代新書)、『金融入門』『国際金融入門』(岩波書店)などがある。この8月に『日本銀行は信用できるか』(講談社現代新書)を出版した。
岩田
イギリス、カナダ、スウェーデン、オーストラリア、ニュージーランドなどで導入しています。その結果、それまで2ケタに近いインフレだったものを、ターゲットどおりの2%に押さえ込み、その一方で、経済成長率は3〜4%と、それまでの2倍近くに伸ばすことに成功しています。現在インフレ目標採用国は25ヵ国に上ります。―― 10年前にもインフレターゲット論がさかんに言われていましたが、反対派の人たちは、“インフレターゲットはもともと高インフレの国がインフレを抑えるためにターゲットを設定した。デフレの国がインフレターゲットを設定してうまくいった例はない”と言っていました。
岩田
それは違いますよ。ニュージーランドがインフレターゲットを導入した時は目標インフレ率の下限はゼロ%だった。それがアジア金融危機でインフレ率がゼロ%を割って一時デフレになりましたが、金融政策によってデフレを脱却してインフレにしている。イギリスでは2%にターゲットを設定していて、物価上昇率が1%以下になると、イングランド銀行総裁は、なぜそうなったのか、今後どうやって2%にするのかを、説明しなければいけない。こうした国のほとんどが、ターゲットの下限を1%に設定しています。これが世界的な標準的な理解です。アメリカではインフレターゲットは導入していませんが、それでもデフレになりそうな時に強力な金融政策を行っています。アメリカのインフレ率は現在1.8%ですが、それでも長期的に考えると、さらに低下する可能性が大きいということで金融緩和している。これが世界の常識です。しかし日本では学界でさえも標準的理解になっていない。
世界を見渡せば、インフレターゲットを導入した国は、いずれも実績を残している。そうした前例がいくらでもあるんだから、一度やってみればいいんです。日本が失われた10年を繰り返さないために、それが絶対必要なんです。
(聞き手=月刊BOSS編集長・関慎夫)
プロフィール
いわた・きくお 1942年大阪府生まれ。66年東京大学経済学部を卒業し、73年同大学大学院博士課程修了。上智大学経済学部講師、助教授を経て83年教授、88年から現職。この間カリフォルニア大学バークレー校客員研究員を務める。専門は金融・経済政策。主な著書に『インフレとデフレ』(講談社現代新書)、『金融入門』『国際金融入門』(岩波書店)などがある。この8月に『日本銀行は信用できるか』(講談社現代新書)を出版した。

「世界を見渡せば、インフレターゲットを導入した国は、いずれも実績を残している」
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