インタビュー
楽天で銀行業に“復帰”元住友銀行の「仕事師」 國重惇史・イーバンク銀行社長に聞く
2009年6月5日掲載 (月刊BOSS)
イーバンク銀行は、ジャパンネット銀行(ヤフーと三井住友銀行が筆頭株主)、ソニー銀行と並び、伸長著しいネット銀行の草分けの1社。2001年7月に開業し、口座数はネット銀行最大の310万、預金量も8000億円と2位につけている。そのイーバンク社長に、昨年9月に着任したのが國重惇史氏(63)だ。元住友銀行取締役で、10年前の1999年にDLJディレクトSFG証券(現・楽天証券)社長に転じ、再びバンカーに舞い戻った。(月刊BOSS 2009年6月号掲載)
イーバンクを完全傘下に
―― イーバンクはこれまで、筆頭株主がライブドアになったりGMOインターネットになったりの時代があって不安定でしたが、昨年夏に楽天が資本参加を表明して、やっと落ち着いたという印象でした。
三木谷(浩史氏。楽天社長)と話をして「どう、國重さん?」と言うから「いや、本件はやっぱりやったほうがいいと思いますよ」と返したら、「國重さんはいっつも果敢に“やったらいい”だからな」と苦笑されましてね(笑)。
―― 三木谷さんはもともとバンカー(旧日本興業銀行。現・みずほフィナンシャル)だし、三木谷さんのほうが積極的かと思っていました。
―― 楽天はこれまで、東京都民銀行と提携し、都民銀行楽天支店というネット支店を持ってましたが。
ただ、楽天クレジット(旧あおぞらカード)や国内信販(現・楽天KC)も買収して、個人向けのローンビジネスとはこういうもの、クレジットカードとはこういうものと、我々なりに勉強することができたので、銀行業も検討したほうがいいだろうと。そんな頃に西沢さんから話がきて、「じゃ、ネット支店というピンポイントで、まずはリスクを軽減した形でやってみよう」と。
でも、都民銀行楽天支店ではネット銀行とは呼べず、なかなかマスコミにも取り上げてもらえなかった(笑)。正直言って苦戦しました。(ネットショッピングモールの)楽天市場の会員からは結構、口座開設の申し込みがきて、それなりに機能したんですが、会員以外のところからお客さんを引っ張ってくることに関しては、独立した銀行を作った場合に比べてだいぶ弱かったですね。
―― 楽天支店の時は、口座数や預金残高はどのくらいでしたか。
松尾さんもずいぶん苦労したと思うんですよ。イーバンクは独立系でやるということでスタートしてますから、最初から資本不足だったんです。加えて、サブプライムローン関連の損失をかなり出してしまい、自己資本比率が厳しい状況に陥った。そこで早急な対策が必要だということで、楽天以外にも、いくつかの企業に声をかけていたようです。
國重
松尾泰一さん(イーバンク創業者。旧日本長期信用銀行出身。3月31日で副会長を退任)から「出資しないか」という話が楽天に舞い込んだのが昨年6月下旬のこと。それから約1ヵ月ぐらいで、デューデリジェンス(資産査定)前に一度結論を出そうということで、8月4日に覚え書きで合意したんです。三木谷(浩史氏。楽天社長)と話をして「どう、國重さん?」と言うから「いや、本件はやっぱりやったほうがいいと思いますよ」と返したら、「國重さんはいっつも果敢に“やったらいい”だからな」と苦笑されましてね(笑)。
―― 三木谷さんはもともとバンカー(旧日本興業銀行。現・みずほフィナンシャル)だし、三木谷さんのほうが積極的かと思っていました。
國重
昔から、彼は酒の席などで冗談めかしてこう言うんですよ。「ほかの役員にはどんどんリスクを取ってやれと言ってきたけど、國重さんにだけは、ちょっと待て、と言うことが多いな」と(笑)。―― 楽天はこれまで、東京都民銀行と提携し、都民銀行楽天支店というネット支店を持ってましたが。
國重
都民銀行で会長をされていた、西沢宏繁さんが元興銀出身なんです。三木谷が新入行員だった頃、担当部署の役員で、雲の上の人だったそうです。で、西沢さんが「これから地銀が生き残っていく上でネット支店をやるのもいいんじゃないか」と言われ、それで三木谷に声がけされた。でも、以前は楽天として、銀行業参入は否定的、というか慎重だったんです。ただ、楽天クレジット(旧あおぞらカード)や国内信販(現・楽天KC)も買収して、個人向けのローンビジネスとはこういうもの、クレジットカードとはこういうものと、我々なりに勉強することができたので、銀行業も検討したほうがいいだろうと。そんな頃に西沢さんから話がきて、「じゃ、ネット支店というピンポイントで、まずはリスクを軽減した形でやってみよう」と。
でも、都民銀行楽天支店ではネット銀行とは呼べず、なかなかマスコミにも取り上げてもらえなかった(笑)。正直言って苦戦しました。(ネットショッピングモールの)楽天市場の会員からは結構、口座開設の申し込みがきて、それなりに機能したんですが、会員以外のところからお客さんを引っ張ってくることに関しては、独立した銀行を作った場合に比べてだいぶ弱かったですね。
―― 楽天支店の時は、口座数や預金残高はどのくらいでしたか。
國重
7万口座、金額で100億円ぐらいかな。で、やっぱり自分たちで銀行を作るしかないんじゃないかという議論を始めかけた時、イーバンクの松尾さんから話が来たわけです。松尾さんもずいぶん苦労したと思うんですよ。イーバンクは独立系でやるということでスタートしてますから、最初から資本不足だったんです。加えて、サブプライムローン関連の損失をかなり出してしまい、自己資本比率が厳しい状況に陥った。そこで早急な対策が必要だということで、楽天以外にも、いくつかの企業に声をかけていたようです。

國重は元住友バンカー。楽天の三木谷浩史社長も興銀出身。
個人向けローンを強化
―― 資産査定の過程で、楽天社内に慎重論はなかったですか。
―― 楽天の出資比率を段階的に引き上げることは、契約書には盛られていたんですか。
―― その後の増資、さらにこの4月以降の楽天クレジットとの統合で、楽天の持ち株はほぼ7割です。
―― 創業者の松尾さんが退任し、サイトもリニューアル、出資比率も7割となれば、次はどの段階で行名も「楽天銀行」に変えるのだろうという点が気になります。
―― ほかのネット銀行と比べて、預金金利や手数料などで、イーバンクは以前ほどの優遇がなくなったという声もあります。
そこで何が起きたか。この資金をどうやって運用するんだと。当時、1%の預金金利をつけていたので、ならば2%、3%の貸出先を確保すればいいという話になりますが、自己資本不足でなかなかできないんですよ。となれば国債です。国債投資は自己資本を使わずに済むわけですから。その後、国債に6000億円、ドカッと投資した。
ところが、国債の利回りって0.5%とかでしょう。1%の金利を払って0.5%で運用すれば当然、逆ザヤになります。それで、残りの2000億円でサブプライム商品に突っ込んでしまったということです。
國重
310万口座で8000億円の預金があるわけですから、事業基盤としてはかなり出来上がっているわけです。ただし、資産査定で正直、よくわからない部分も結構あったんですが、いつまでも交渉をズルズル引っ張るわけにはいかないし、イーバンクとしても(中間期の)9月末までの自己資本比率をどうするかが結構、大きな問題でしたから。―― 楽天の出資比率を段階的に引き上げることは、契約書には盛られていたんですか。
國重
まず、自己資本的には十分な金額として200億円入れるというのはありましたね。あとは「楽天としては最低でも30%以上の出資が取れないと意味がないし、将来的には過半以上取得したい。それもよろしいですね」と念押しはしました。―― その後の増資、さらにこの4月以降の楽天クレジットとの統合で、楽天の持ち株はほぼ7割です。
國重
当行の収益を伸ばしていくには、個人向けのローンビジネスをどんどんやっていこうと。その点、楽天クレジットにはすでに1000億円のローン残高がありますから、ここと統合すれば、イーバンク単独でローン事業をゼロスタートするより赤字負担は軽く済みます。―― 創業者の松尾さんが退任し、サイトもリニューアル、出資比率も7割となれば、次はどの段階で行名も「楽天銀行」に変えるのだろうという点が気になります。
國重
そこは正直、まだ考えてないんですが、楽天の連結対象になったので、そうなると当行の決算や業務計画もグループの中でどう判断していくかという問題があります。社名変更については、それこそ定款も変更しなければいけないでしょうし、今日明日に決める話ではないと思います。ただ、楽天グループとのシナジーについてはプロジェクトチームを作ってもうスタートしてます。楽天会員はいま4700万人もいますから、中には「イーバンクってどこの銀行?」って思う人も少しはいるでしょうしね。―― ほかのネット銀行と比べて、預金金利や手数料などで、イーバンクは以前ほどの優遇がなくなったという声もあります。
國重
当行の蹉跌の一番の問題点は、8000億円も預金が集まってしまったこと。決済中心のネットバンクという志向があったので、とにかく口座数を増やしたいという考え方があったんですね。そのためには預金に高い金利をつけてと。そうしたら、結果的に8000億円も集まっちゃったというのが率直なところだと思います。そこで何が起きたか。この資金をどうやって運用するんだと。当時、1%の預金金利をつけていたので、ならば2%、3%の貸出先を確保すればいいという話になりますが、自己資本不足でなかなかできないんですよ。となれば国債です。国債投資は自己資本を使わずに済むわけですから。その後、国債に6000億円、ドカッと投資した。
ところが、国債の利回りって0.5%とかでしょう。1%の金利を払って0.5%で運用すれば当然、逆ザヤになります。それで、残りの2000億円でサブプライム商品に突っ込んでしまったということです。

「楽天キャッシュ」も売りに
―― 楽天経済圏としてのイーバンクの位置づけは、どうなりますか。
あと、楽天市場の6割ぐらいがカード決済なんですが、逆に言うと、残りの4割は銀行が関与する余地があるし、カード決済のほうも口座をイーバンクにしてもらって、楽天グループに関わるすべてのマネーアクションに関わる形にしたいですね。
―― メルマネ(メールアドレスで振込サービスができる)など、イーバンクには他行にはない、ユニークなサービスも多いですよね。
この間、20代の学生へのアンケート調査をしたところ、どの銀行を使っていますか、どの銀行を使いたいですかとの設問で、当行は1位とか2位なんです。メガバンクに口座を開くというのはもう昔の話で、いまは結構、若い人を中心にネット銀行に口座を開いていますね。
当行では、給与振込口座としても、すでに何万口座かあり、給与振込先指定にしてもらうと、月3回、他行への振込手数料を無料にしています。いまはネット銀行は「第二口座」という位置づけですが、世代交代とともに「第一口座」に変わっていくでしょう。
―― いずれ、楽天グループの本社が集中している東品川に、イーバンクも移転するんでしょうか。
―― 将来は株式公開も?
(聞き手=月刊BOSS・河野圭祐)
プロフィール
くにしげ・あつし 1945年12月23日生まれ、63歳。68年東京大学経済学部卒。同年住友銀行(現・三井住友銀行)入行。87年渋谷東口支店長、88年業務渉外部付部長、90年審議役融資第三部出仕。91年本店営業第一部長、93年丸の内支店長、94年取締役入りし、95年日本橋支店長、97年本店支配人東京駐在、同年住友キャピタル証券副社長に転じ、99年DLJディレクトSFG証券(現・楽天証券)社長。楽天副社長などを経て、2008年9月より現職。
國重
証券も保険も決済が伴い、できるだけイーバンクに決済機能を担わせる。たとえばSBI証券さんが住信SBIネット銀行との間で即時決済、つまり銀行に預金したままで株が買えますという仕組みを作りましたが、そういう機能です。あと、楽天市場の6割ぐらいがカード決済なんですが、逆に言うと、残りの4割は銀行が関与する余地があるし、カード決済のほうも口座をイーバンクにしてもらって、楽天グループに関わるすべてのマネーアクションに関わる形にしたいですね。
―― メルマネ(メールアドレスで振込サービスができる)など、イーバンクには他行にはない、ユニークなサービスも多いですよね。
國重
松尾さんってものすごくアイデアマンで、米国の「ペーパル」といって、いまイーベイ傘下にある企業のビジネスモデルをずっと研究してメルマネを始めたんです。同じように楽天も都民銀行さんとのコラボで「楽天キャッシュ」というバーチャルマネーを開発した。メルマネと楽天キャッシュを一本化して、大々的にやろうという話をしています。口座数そのものは、とりあえず500万を目標にしていきます。この間、20代の学生へのアンケート調査をしたところ、どの銀行を使っていますか、どの銀行を使いたいですかとの設問で、当行は1位とか2位なんです。メガバンクに口座を開くというのはもう昔の話で、いまは結構、若い人を中心にネット銀行に口座を開いていますね。
当行では、給与振込口座としても、すでに何万口座かあり、給与振込先指定にしてもらうと、月3回、他行への振込手数料を無料にしています。いまはネット銀行は「第二口座」という位置づけですが、世代交代とともに「第一口座」に変わっていくでしょう。
―― いずれ、楽天グループの本社が集中している東品川に、イーバンクも移転するんでしょうか。
國重
コミュニケーションを考えたらそれは必要だと思います。ネット企業ですから、別に都心にいる必要もないですしね。ここ(東京・内幸町の大和生命ビル1階)は実は賃料が安いんです。上階にマツダさんの東京本社が入っていて、1階はクルマのショールームとして使われてたんですが、そのショールームをやめるという話になって、ならば当行に貸してほしいと。―― 将来は株式公開も?
國重
ありうるでしょうけど、その前にまずキチンと業績を上げませんとね。イーバンクももう少しで上場というところまできて、当時、僕は楽天証券にいて「上場する時はぜひ、ウチを引き受け幹事会社に」と言って、この応接室までお願いに来た記憶があります(笑)。(聞き手=月刊BOSS・河野圭祐)
プロフィール
くにしげ・あつし 1945年12月23日生まれ、63歳。68年東京大学経済学部卒。同年住友銀行(現・三井住友銀行)入行。87年渋谷東口支店長、88年業務渉外部付部長、90年審議役融資第三部出仕。91年本店営業第一部長、93年丸の内支店長、94年取締役入りし、95年日本橋支店長、97年本店支配人東京駐在、同年住友キャピタル証券副社長に転じ、99年DLJディレクトSFG証券(現・楽天証券)社長。楽天副社長などを経て、2008年9月より現職。

イーバンクでは馬券も扱う。國重氏は根っからの競馬ファンだが、ネットでの馬券購入が定着したそうだ
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